BE KOBE SHOES 相思相愛

BE KOBE SHOES 相思相愛

株式会社アレッツォ

2004年に設立したシューズブランド「アレッツォ」。 長田区に本社・ショールームを構え、トレンドを効かせたベーシックなデザインで靴の企画・製造・卸・販売を行っている。アパレルメーカー とのOEM事業に加え、近年はオリジナルブランドの企画にも力を入れている。代表の水谷義臣さんを訪ね、発売から10年以上のロングセールを記録しているストレッチサンダル「ラゴンマ」や、 企画販売と製造の役割を分けた経営スタイルについてもお話を伺った。

ブランド名は、靴を愛する街の名前から

編集部:水谷さんの靴づくりに関わる経緯を教えてください。

実家が靴の製造工場を営んでいて、幼い頃からたまに手伝っていました。高校卒業後、家業を継ごうと思って浅草の専門学校で靴づくりの基礎を学びました。
学校が終わった後に、靴販売のアルバイトもして渋谷でやらせてもらって。足入れのチェックの仕方、履く人が気になるポイント、売れるデザインなど、実際の販売の現場での経験が勉強になりました。その後はイタリアのミラノにある靴職人養成学校で半年間、紙型製作などパタンナーの勉強をしました。そして、トスカーナ州の都市「アレッツォ」にあるシューズメーカーに1年半勤務してデザインを学んでから帰国。地元の人たちのやさしさに感動したことがきっかけで後々、街の名前を社名にしました。2004年設立のアレッツォは企画販売を、兄が代表を務める三福は製造を担っています。アレッツォは窓口全般を担当しているので、ユーザーやOEMのお客様の声を製造側にいかにうまく伝えるかが大切です。つくり手目線と売り手目線、そのどちらも大切にしながら今はいいバランスで靴づくりを行なっています。

イタリアのデザインと、日本の手仕事の融合

編集部:今、イチオシの靴について教えてください。

オリジナルブランド「ラゴンマ」の、独自製法でつくったストレッチサンダルです。ブランド名はイタリア語で「ゴム」という意味。最大の魅力は、ストレッチ素材を活かしたデザインです。このサンダルは、オリジナルブランドから最初につくった厚底トング(鼻緒)タイプで、2つのストラップの組み合わせで履きやすさ生み出しました。鼻緒のストラップは伸縮してどんな足にもフィットし、甲部分のストラップは伸縮性をなくし、足をホールドしてくれます。また、アウトソール(靴底)にはラバーシャークソールを採用し、3cmの厚みでクッション性に優れ、ギザギザの溝によって屈曲性が高まり、しなやかに歩行を助けます。
ラゴンマが誕生したきっかけは、自分自身も履き心地を実感できるメンズの靴をつくってみたいという想いからでした。ストレッチ素材専用ミシンをラゴンマのために入れて、ミシン工の皆さんを説得しながら使い慣れてもらいました。2013年に立ち上げてもう10年が経ちますが、一度もデザインは変えていません。おかげさまで長くお客様に愛用いただいています。

神戸でしかつくれない靴がある

編集部:神戸の靴づくりの特徴やよさはなんでしょうか。

東京、イタリア、神戸と各地で靴づくりを経験してきました。靴づくりのおもしろいところは、地域ごとに製造の仕方が異なったり、得意な靴のジャンルがあったりするところです。昔から力作業が多い靴づくりの業界は男性中心の職場ですが、神戸は女性が携われるように仕事を工夫して行なってきた歴史があります。全国的に見てもいち早く女性の力でも機械を使えば作業できるようにしていって、そうした流れが世界的に見てもやわらかい神戸の靴文化を生み出しました。薄くて軽くてやわらかいから、足馴染みがよくて靴ずれがしにくい。しかも耐久性に優れているのは、ほかの地域に比べて人工皮革や糊(のり)の技術が高いからではないでしょうか。アレッツォのそばにある糊の会社は海外にも輸出しているほど、日本の糊は接着力が高くて海外からも評価されているんです。神戸は神戸でしかつくれない靴があります。自社工場でのOEMの経験を自社ブランドでの企画・製造にも活かしながら、私たちもアレッツォならではの靴づくりを続けていきます。

 

株式会社エレーヌ

1980年創業の婦人靴メーカー「エレーヌ」。外反母趾など足の悩みを持つ女性向けのコンフォートシューズを主に製造・販売している。代表の時見弘さんは、日本ケミカルシューズ工業組合の副理事長としても神戸の靴産業を牽引する存在だ。オリジナルブランド「時見の靴」のロングセラー商品や神戸での靴づくりの歴史について、長田区にある本社を訪ねてお話を伺った。

 

靴のまち、長田のこれから

編集部:時見さんの靴づくりに関わる経緯を教えてください。
創業者の父はずっと自営業で、最初(戦後)に飴製造、それから喫茶店などを経営したあと、靴屋を始めました。今いるこの展示室は雀荘だったんです。僕は東京の小さな靴メーカーでアルバイトをしながら靴学院に通い、長田の靴メーカーで修行して、父の会社のエレーヌに入りました。阪神・淡路大震災で取引先の問屋さんが倒産して、多額の負債を抱えたこともあったけど、父から会社を継いだ兄と二人三脚でどうにか盛り返したんです。とはいえ、海外生産の勢いが強く、長田の靴づくりに関わる会社がどんどん減っていく状況は変わっていません。このままではダメだということで、合皮から革の靴づくりに事業転換していきました。2010年に始めたのがオリジナルブランド「時見の靴」。兄から代表のバトンを受け取って、日本人に多い外反母趾の方が楽に履ける靴を届けるために立ち上げました。カタログを出して通販も始めたことによって、OEMとは別の動きができたことが事業をつづけるための資産になっています。震災前は国産のケミカルシューズ(*1)の7割を長田のメーカーが生産していましたが、今はケミカルと革がうまく共存していることもこの地域の特徴のひとつですね。

*1 ケミカルシューズ | 主に塩化ビニールなどの合成樹脂を使用した合皮で作った靴。

日本人の足に寄りそうコンフォートシューズ

編集部:今、イチオシの靴について教えてください。
「Mode Tokimi ラム革コンフォートシューズ」は、くらしと生協さん向けに製造している靴で、こちらはローファータイプのもの。アッパーはラム革を使用していて、なめらかな質感と足当たりのやわらかさが特徴です。中敷き全面にクッションを敷いていて、土踏まずの部分をアーチ状にすることで足裏にフィットするようにしています。さらに、つま先には低反発ウレタン、かかとにブレ防止半カップインソール、中足骨には負担軽減のパッドを入れるなどの工夫をしていて、足をしっかりサポートする一足です。自分に合った靴を探している皆さんに一番お伝えしたいことは“足長・足囲・足幅を測る”ということ。靴のサイズは足長(かかとから足の一番長い指先までの長さ)をもとに選ぶのが一般的ですよね。ですが、靴選びにおいて重要なのは靴のサイズではなくて足のサイズなんです。足囲(足の親指と小指の付け根をぐるりと囲った長さ)や足幅(上から見て一番広い足の横幅)も測って適切な靴を選ばないと、靴ずれやヒールが折れることにつながります。エレーヌにはシューフィッターがいて、お電話などでサイズの相談も受けられますので、ぜひ活用してもらえればうれしいです。

くつの産地として次の時代へ

編集部:長田の靴づくりはこれからどうなると思いますか?
僕も所属する日本ケミカルシューズ工業組合では、加盟する企業が連携して、メイド・イン・ジャパンにこだわった質の高い靴を生み出し続けています。平成26年3月には、地域団体商標として「神戸シューズ」が登録されました。合皮などのケミカル素材にこだわらず、神戸ならではのファッション性と機能性が特徴。「京都の着だおれ」や「大阪の食いだおれ」と並んで「神戸の履きだおれ」とも呼ばれた靴のまちには、長年培ってきた技術力があります。エレーヌが「時見の靴」を独自のブランドとして打ち出していったように、日用品ではなく嗜好品としての靴を生み出して残していくことがこれから大切ではないかなと考えています。それと、日本人が履く靴は日本でつくることに意味がある。僕はそう思いますね。機械化されていく部分は増えているけど、それでも手仕事がまだまだ欠かせないのが靴づくり。日本人の足の形を理解している会社や職人がいるからこそ、長く履いてもらえる靴がつくれるんです。

カワノ株式会社

1921年に創業した婦人靴メーカー「カワノ」。長田区に本社・工場を置き、女性の美と健康のため、ファッション性と機能性を備えた靴づくりを行なってきた。自社を代表するブランド「BARCLAY」など、メイド・イン・ジャパンの靴を企画から製造、販売まで一貫して手がけている。100年以上の長きに渡り、ユーザーの支持を得続けてきたその魅力について、デザイナーの伊丹里江さんを中心に、パタンナーの小島竜太さん、管理本部の野田和也さんにお話を伺った。

時代の変化と呼応してきたオリジナルブランド

編集部:カワノの歴史や靴づくりについて教えてください。

野田:大正10年の創業時は「河野護謨(ゴム)工業所」という名前で総ゴム靴をつくっていて、昭和27年にケミカルシューズの製造を始めました。昭和34年に婦人靴分野へ進出した後、革靴分野にシフトしたと聞いています。

伊丹:国産素材の使用と神戸の地場産業の活性化は意識していて、靴底などの見えにくいパーツも近くの協力会社さんから仕入れています。昔は革靴に対して重厚感や高級さが重視されていましたが、今は軽さと楽さが求められているように感じますね。紐の靴よりもスッと履けるローファーが人気。あとは、少し厚底であること。厚いと足が楽だという感覚が、スニーカーのトレンドから来ているのかなと思います。

小島:求められるものはだいぶ変わっていますよね。履いていてきつい靴は避けられる。例えば、パンプスはある程度の締めつけがないと脱げてしまうから、そのあたりのさじ加減はよく考えています。トレンドもターゲット層によって変わってくるので、ブランドごとに対象を見据えて見せ方をうまく変えています。

野田:基幹ブランドである「BARCLAY」は「知的かつ上質」というコンセプト。快適なフィット感と履き心地は機能として持たせながら、時代に左右されないトラッドなデザインです。「VITA NOVA」はコンフォートのブランドで、年齢としてはより上のお客様を対象にしています。少し幅が広めの木型でつくっていて、ベーシックでカジュアルなデザインでご提供しています。

 

さらりと履いて、気品漂う大人の一足

編集部:今、イチオシの靴について教えてください。

伊丹:2024年春の新作、BARCLAYの「ボリュームグルカサンダル」です。グルカサンダルは革のバンドを編み込んだアッパーのデザインで、2023年春もすごく人気でした。革靴の重厚さとサンダルのかろやかさを合わせ持っていて、見た目よりは軽量。ポイントはソールのこの丸いフォルムです。

小島:靴づくりはまずデザインから入ります。デザイナーの伊丹さんがまず手描きで絵を描いて、パタンナーの私が受け取る。ヒールの高さやつま先まわりの形などについて話し合いながら、ベースの木型を決める。そして、平面の紙型に起こす。

伊丹:その後は革のサンプル帳を見ながら素材を選んで原価計算もして、ファーストサンプルをつくります。自社工場なので、1週間で上がってくるスピード感も強みです。足入れをしては修正して、これでいこうという段階で、そのサンプルからパターンを取って製造を進めます。BARCLAYだけでもシーズンごとに10点ほど新作を出すので、1年で4シーズンと考えると新しいものを出し続ける難しさはありますね。

野田:昔は欧米の展示会で多くの情報が掴めましたが、今は消費者のほうが情報を持つ時代です。BARCLAYの直営店が百貨店に入っていて、店頭でユーザーと接する販売員の声をマーケティングに活かしています。例えば、サンプルを見せて「これは百貨店ではスポーティーすぎるかな」と意見をもらったり。ただトレンドに追従するのではなく、消費者動向を調査しながらブランド独自のデザインを提案しています。

神戸発、世界基準のシューズメーカーとして

編集部:靴づくりの未来に向けて取り組んでいることはありますか?

伊丹:CSR(企業の社会的責任)の面でお話すると、ボリュームグルカサンダルは「エコレザー」と呼ばれる人工皮革を素材として使用していて、環境に配慮した商品開発をしている一例と言えます。エコレザーというのは、裁断時に出た革の余りを捨てずに圧縮して、上からコーティングしている素材なんです。

野田:ユーズドの着物の帯を使ったスニーカー「japonica」もそうですね。2023年秋にリニューアルして発表したばかりで、渋谷でポップアップストアを2週間ほど開いたときには訪日観光客の方々の反応が特によかったようです。若い男性に人気があったものの、メンズは1型しかなかったので今後の展開を考えているところです。

伊丹:帯の柄もそれぞれ異なるので、すべて1点ものなんです。ひとつの帯から5足分くらいしかつくれなくて、デザインの難易度は高いですが、メイド・イン・ジャパンを掲げるカワノらしい靴です。世界の国々にも届けられたらうれしいですね。

 

株式会社中谷加工所

1989年に創業し、主にスポーツシューズ底のOEMを行うメーカー「中谷加工所」。兵庫区に本社・工場を構え、社内で一貫生産体制を取ることで小ロット・多品種のオーダーにも応えてきた。本社の八木幸代さんと企画営業部長・清谷典子さんを訪ね、メーカーとしての歴史や2020年に立ち上げたファクトリーブランド「COLiNKiiKA(コリンキッカ)」のスニーカーについてお話を伺った。

夢だった、自社ブランドの立ち上げ

編集部:自社ブランドを立ち上げられた経緯を教えてください。

八木:創業当初は大手スポーツメーカーさんからの依頼で靴を製造していました。阪神・淡路大震災がきっかけで靴底の生産がメインになって、並行して登山靴などアウトドアシューズの修理事業も続けていました。そして、2016年に法人化して現代表に代替わりした際、靴底以外の部分も含めたスニーカーのOEMにしっかり取り組むようになりました。

清谷:震災以降はまわりで海外生産の靴が多くなりましたが、中谷加工所の靴底に関してはすべて神戸産、靴底以外の素材も国産にこだわって続けてきました。自社ブランドでのスニーカーづくりは前々から夢としてあって、コロナ禍でようやく手が少し空いたタイミングで立ち上げに至りました。2020年9月2日の“靴の日”、スニーカーの自社ブランド「コリンキッカ」を発表しました。

八木:現在のサイズ展開は男性も意識していますが、元々のターゲットは30、40代の女性です。スポーツメーカーさんが手がけるスニーカーはスポーツ感がやや強い印象がありますが、私たちはちょっとかわいくておしゃれに履いてもらえるスニーカーを目指しました。日常のなかで「はずむ心」と「彩りある毎日」を提供するというコンセプトがあって、どんな服にも合わせやすいシンプルなデザインと豊富なカラー展開を用意しています。履き心地を確認する目的もありますが、仕事中でもそうでなくても好んで履いている社員が多いです。

 

足元で輝く“きっかけ”のスニーカー

編集部:今、イチオシの商品を教えてください。

八木:こちらは2022年に発売したコリンキッカのシリーズ第3弾「Beryl」で、カラー名は「ラベンダー」。幅広のラインで、ベロア(起毛革)と生地を使った異素材コンビスニーカーです。第1弾「Citrine」はシンプルなオールレザーで少し細身。男性にも人気でスーツにも合います。第2弾「Amber」は神戸の海をイメージした波のラインが入ったデザインでスポーティー。

清谷:ライン名はそれぞれ緑柱石、黄水晶、琥珀といった宝石の英語名を付けています。足元できらめく存在であってほしいという想いを込めていて、これは女性が多い職場ならではのネーミングかもしれませんね。それと、カラー名は和菓子や飲み物、植物の名前などいろいろです。名前は和気あいあいとみんなで案を出して決めています。

八木:スニーカーの履き心地にはかなりこだわっています。中底もアッパーに使う国産レザーもほどよいやわらかさで、長時間履いても足に負担を感じさせないようにしています。スニーカーづくりにはいろんなパーツが必要ですが、生産の全工程を自社で完結している会社は国内では少ないはず。「コリンキッカ」は細胞の構成要素「コリン」と、きっかけの「キッカ」を組み合わせた造語です。たくさんのパーツを自分たちの手で丁寧に組み合わせて、細胞が集まって生まれたような靴なんです。私たちとお客様が出会うきっかけの商品になれば。そんな気持ちで名付けた靴です。

 

単なる流行ではなく、日常に残る靴を

編集部:靴づくりを長く続けるために取り組まれていることはありますか?

八木:SDGs(持続可能な開発目標)の取り組み例としては、まず受注生産であることが挙げられます。注文を受けてから15~20営業日ほどいただいて出来立ての靴をお客様にお送りしているので、売れ残って廃棄処分する靴はありません。中底にはコットン100%を使用するなど、素材選びにおいても環境負荷の軽減を心がけています。

清谷:中谷加工所のオンラインストアからスニーカーをご注文いただけますが、現状ではカスタムオーダーを受け付けていません。百貨店さんの催事では靴底の厚みや色、アッパーの素材や色などを変更して自分だけの一足をオーダーできるのでオススメです。アンケートにあるお客様の声を読むと、お気に入りの靴は大切に履き続けてもらえている実感があります。

八木:ご購入いただいたお客様には、催事や本社にスニーカーをお持ちいただければ、お預かりして消臭・防水と簡単なお洗濯の対応をしています。スニーカーは寿命が短いイメージがあるかと思いますが、コリンキッカは長持ちするとよく喜ばれます。先日催事に来られた方は2年前にコリンキッカを購入してほぼ毎日履いていたそうですが、手入れされていたからかアッパーはきれいで、すり減った底を替えればまだまだ履ける状態でした。今、靴底のリペアなどの修理サービスをご提供できるように準備を進めています。時代が変わっても長く使ってもらえるようなものづくりをこれからも続けていきます。

HIBI

「ともにつくる靴」をコンセプトに、お客さまのオーダーを細やかにヒアリングしながらオーダメイドの革靴を手がけるブランド「HIBI」。靴をつくる田中康雄さんは、専門学校を卒業後、地道に靴づくりを追求し、メーカーでの仕事や周りの職人から技を学びながら腕を磨いてきた。「靴づくりは、常に修行だ」という田中さんの、靴づくりにかける思いとこだわりについて伺った。

 

ファッション性と足への思いやりが共存するデザイン

編集部:田中さんの靴づくりについて教えてください。

僕のアトリエは週末だけ開く小さな場所です。そこに、わざわざ来ていただくお客さまは、足に関する悩みを抱えておられるケースが多く、それぞれに合うやり方でフィットする靴をつくることを心がけています。足の形にあわせて木型からつくる場合もあれば、既存の木型と素材をカスタムしてオーダーいただくこともあります。靴をつくるとき、足に対して心地よい構造で、履いていてしんどくないことは必須条件。それらをクリアした上で、その人の雰囲気やファッションに合うデザインを追求したいんです。足に合わせて履きやすい靴をつくっていくと、つま先がポテっと丸い仕上がりになってしまうことが多いのですが、そういう場合であっても、お客さまのコーディネートと違和感がないようなデザインを心がけます。例えば、ステッチの配色にこわだってみたり、エッジの効いたシルエットに挑戦してみたり。足に対するちょっとしたやさしさ、そして、その人らしさを、履き心地にプラスすることが僕にとっての“デザイン”なのかなと。

 

カスタムでつくる、ハイパフォーマンスなスリッポン

編集部:今、イチオシの靴について教えてください。

 “シンプルで脱げにくく、職人さんが履いてもかっこいい靴”をコンセプトにつくった「カスタムオーダー・スリッポン」ですね。これまでの仕事で、家具職人さんや大工さんたちとたくさん出会ってきました。工事や納品のために靴の着脱することが多く、スリッパを履いている方をよくみかけるのですが、それでは動くとすぐに脱げてしまうし、せっかくの職人さんの風格や品格が隠れてしまうような気がして。そこで、機能的でありながらかっこよく見える靴を目指して完成したのが、スリッパのように履けるスリッポンです。甲の高さを微調整し、作業着とあわせるとエンジニアブーツのように見えて無骨な雰囲気に。動いている時は脱げにくい踵を設計。スリッポンは、普通に履いていても動いているときに脱げやすいじゃないですか。だから、1ミリ単位での修正と試作を繰り返して、半年くらいかけてようやく今のデザインにたどりつきました。革とソールを選んでいただき、お客さまの足の形にあわせてカスタムオーダーでおつくりする靴で、靴メーカーで出た余りの革を使うことでコストを抑えています。

 

履く人と一緒に喜べる一瞬を、ともに味わうために

編集部:革靴をどのように履いてほしいと思われていますか。

一般的に革靴は慣れてくるまでは痛いと言われますが、靴は日常的に履くもの。だからやっぱり僕は、初めの一歩から心地よいと思ってもらえる靴をつくりたいと思ってます。そのため、フルオーダーの場合は、まず”仮靴”をつくって試着していただきます。歩き方のくせや痛いところを確認して微調整を繰り返し、仮靴でOKが出てはじめて、本番の靴づくりに進みます。最低3ヶ月はかかりますし、価格は高く感じられるかもしれません。でも、常に、お客さまのイメージを超えていきたい。僕、もともとバンドマンなんです。もしかして、靴づくりってライブと似ているのかもしれないと感じることがあります。ステージに立つと、どんな反応があるのかこわいんだけど、音を奏で始めると観客がわっと盛り上がるたまらない一瞬がある。靴づくりをしていても、お客さまがよろこんでくれる特別な瞬間があって。僕はあの気持ちを味わいたくて、靴をつくり続けているのかも。足の形はそれぞれ違うから、靴づくりに正解はありません。だから、靴づくりは修行だということを肝に銘じて、成長していきたいと思ってます。

株式会社ベル

1969年の創業以来、長田区で「足にやさしい」をコンセプトに靴づくりを続けてきた「ベル」。海外製造の安価な靴が増える時代に通販サイトや直営店での販売体制を整え、独自開発のインソールや国産の人工皮革を取り入れ、時代の変化に対応してきた。本革と合成皮革の長所を兼ね備えた「ヴィーガンレザー」とは。履く人への愛にあふれたアイデアの源とは。代表の高山雅晴さんにお話を伺った。

逆境を乗り越えるための販路と新素材

編集部:今、ベルでどのような靴をつくっているか教えてください。
ベルで製造している靴の90%はレディースで、7年前からメンズも作り始めました。現在、OEMでの靴づくりはしていなくて、自社通販サイトと直営店での販売がメインになっています。卸問屋と小売店を通す従来の製造卸から直販に切り替えたきっかけは、阪神・淡路大震災でした。得意先の卸問屋が倒産してベルも危なくなったことをきっかけに、楽天市場に出店したらよく売れて、一時は売上の99%がWEB販売になるほどに。直販になったことで価格設定の自由が生まれたので、原価を下げて、卸価格を抑える靴業界の流れとは違う方向に舵をきれました。オンリーワン戦略というんですかね。まずは、独自開発のインソールを半分以上の靴に入れて、その次、「ヴィーガンレザー」と私たちが呼ぶ人工皮革の使用をはじめました。これは本革の繊維構造を人工的に再現した素材で、本革と合成皮革の間のようなものです。とにかく軽くて、やわらかい。原材料としては高めで、靴業界で使っている会社は少ないと思います。この人工皮革での靴づくりでは、釘を使わないので、それも靴のやわらかさにつながっています。ベルの販売店の屋号は「Belle & Sofa やさしい靴工房」。一番大切にしているコンセプトは、履く人へのやさしさです。

足をやさしく包み、日々を共に過ごすスニーカー

編集部:今、イチオシの靴について教えてください。
「Sofaシリーズ」はオリジナルの高反発インソールが入った製品。そのシリーズのひとつが、この「COCOT」というナチュラルスニーカーです。坂が多い神戸でも歩きやすく、毎日履きたくなる靴を目指して開発しました。足裏を包むように設計されたインソールが足の形や動きにフィットして、疲れにくい。ヴィーガンレザーは合成皮革に比べて伸縮性があるし、本革に比べて軽くて抗菌性がいいから雨の日も履ける。あとは、この靴底の色も特徴ですね。ブラウンとホワイトの靴底は、製作時期によって自然な色むらが生まれるように“染料”で着色しています。一般的には、どんな環境でも均一に着色できる“顔料”を使います。ベルではナチュラルな雰囲気に馴染む“染料”を使っていて、タンク内の湿度や温度によって色の出方が変わる。小売のチェーン店だと不良品扱いになるでしょうけど、私たちはこの手づくりの味を靴の個性として大事にしています。購入いただいた後も自社で修理ができますし、靴によっては幅広・幅狭の加工や左右で異なるサイズの注文を受けられます。それもまた、メーカー直販の強みですね。

 

アイデアは、人や社会を助けるためのもの

編集部:ベルの靴づくりを長く続けるための工夫はありますか?
4年ほど前から新卒採用をようやく始めて、職人やデザイナーを育成しています。また、社内で「アイデア報酬制度」をつくって企画開発を奨励しています。社内で高い評価を受けたアイデア商品は利益の20%を4年間うけとれるというものです。また、靴を製造する工程で余ってしまった材料を活かして革の手帳やブックカバーをつくるなど、環境面でも配慮したプロダクトを生み出しています。結果、そうした雑貨小物が売上全体の15%を占めるようになりました。ビジネスシューズ「HAWK」は中底が不要な独自の製法でつくった靴で、通常の靴よりも産業廃棄物が30%減。「HAWK」と同じくグッドデザイン賞をいただいた「KAYAK」は、足を入れて振るだけでマグネットボタンが留まってハンズフリーで履ける靴。妊婦さんや足腰が弱い方にも重宝されています。僕らのアイデアは、社会で困っている人を意識したものが多いです。靴のデザインに関しては、骨格をしっかりさせてかわいくコンフォートに、アッパーはシンプルにしています。結果的に50~70代の方々が多く履いてくれていますが、20代の社員も履けるものをつくりたいなと。かわいくいたい、かっこよくありたい。そういう気持ちって何歳でも変わらないですからね。

 

ミサキシューズ

靴職人の内尾暢志(のぶゆき)さんが2015年に立ち上げたセミオーダーブランド「ミサキシューズ」。革靴とスニーカーの中間のような履き心地が特徴だ。内尾さんは神戸ものづくり職人大学で靴づくりを学びながら、国内外の職人を訪ねて一つひとつの工程に対しての知識を深め、独立に至った。建築士やバーテンダーの経験はいかに靴づくりに活かされているか、なぜカジュアルラインを始めたのか。元町にあるミサキシューズの店舗を訪ねてお話を伺った。

 

対話を重ねて引き出す足の悩み

編集部:普段はどこで、どのような靴づくりを行なっていますか?

神戸市が運営していた神戸ものづくり職人大学の在学中に職人仲間と共同で構える工房「KNOCKS:BESPOKE(ノックス ビスポーク」を和田岬でオープンしました。普段はその工房で昼すぎまで靴をつくってから、ミサキシューズの店舗に移動して採寸・販売をおこなっています。木型からつくるフルオーダーの場合は一人ひとりの足の悩みに合わせて、デザインと履き心地が両立した靴づくりを心がけています。履く人の声を丁寧に拾って形にすることができるのがビスポークシューズ(顧客と話しながらつくるオーダー靴)のよさではないでしょうか。大学時代は夜にバーテンダーの仕事をしていて、会話スキルを磨きながらお客さんの足や靴をよく見せてもらっていました。また、靴業界に入る前は設計事務所で働いていたので、建築的な荷重を分散させる考え方は靴づくりにも活かされています。いろいろな経験や自分の体験を活かしながら、その人に合ったオーダー靴を製作しています。

 

工房のある岬で生まれた、セミオーダーシューズ

編集部:今、イチオシの商品を教えてください。

セミオーダーラインの「ミサキシューズ」です。こちらはくるぶし丈のチャッカブーツで、羽根(靴ひもを通す穴部分の革)が甲部分にかぶさる「外羽根式」のデザイン。これ以外にも内羽根式やローファーなどのモデルがあって、靴ひもの下にサイズ調整用のフォルスタンを入れる、ステッチをダブルに変更するといったカスタマイズも受け付けています。基本的にはモデルと革を選ぶだけで注文できるので、オーダーの革靴が初めての方にとっては価格も含めてハードルが低いと思います。アッパーには厚みのある天然皮革、ソールにはクッション性に優れたビブラム社製の軽い厚底を使用しています。足の筋力が必要以下に落ちてしまわないように、中底にはインソールではなく革を使っています。フットプリントが付くと、足に自然と馴染んでいきます。ミサキシューズは元々、和田岬の工房で作業をする自分用につくりました。革靴とスニーカーの合いの子のイメージで、靴下のような味わいの靴を目指しました。僕の靴を目にしたお客さんからの反応がよかったので、革靴のカジュアルな入口になればと思って注文を受けるようになって。ミサキシューズを履いてからフルオーダーの靴を購入してくれる人も多いのでうれしいです。

 

“あつらえる街”の文化をふたたび

編集部:他の方と協働で取り組まれていることがあれば教えてください。

ミサキシューズがある建物の1階には、靴・鞄のお直し専門店「RECUPERO(レクペロ)」があります。靴の修理を希望する方をレクペロさんに紹介したり、うちの工業用ミシンを貸したり、互いにできないことは補い合っていますね。靴のお手入れ教室を開かれているので、つくった靴を長く大切に履いてもらえるきっかけにもなっていると思います。それと、神戸に拠点を置く靴職人グループ「MAKING THINGS」の一員として他府県で展示会などを行なっています。最近みんなで話しているのは、神戸を“あつらえる街”にしたいということ。靴産業の衰退を嘆く人もいるけど、そもそも僕らは栄えていた時代をあまり知らない。神戸には神戸靴・神戸洋家具・神戸洋服などオーダーメイドの文化がまだ残っているのだから、僕らが街の靴屋として根ざしながらも外に出ることで、靴をつくりに行こうと思ってもらえる街になればいいなと考えています。活動をしているといろんな材料屋さんとも知り合えて、可能性が拓けてきます。旧態依然でいるより、新しいことを始めるほうが僕は好きですね。今はスニーカーの商品開発を進めているので、楽しみにしてもらえたら。

 

Yusuke Omori ordershoes maker

「上質な普段履き」をテーマに靴を仕立てる工房「Yusuke Omori ordershoes maker」。代表の大森勇輔さんはドイツの整形靴マイスターに師事した後、2007年に地元神戸で独立。解剖学や整形外科学の知識に基づいてつくられるフルオーダーのビスポークラインは足にやさしく、ミニマルな作風。カジュアルオーダーの「クスノキシューズ」はソフトな履き心地で価格が抑えられている。オーダー靴をより気軽なものにするべく、活動を続ける大森さんの工房を訪ねた。

 

シンプルなデザインに際立つ良質感

編集部:フルオーダーとカジュアルオーダー、それぞれの靴の特徴を教えてください。

フルオーダーのブランド名は「Acoustikka Bespoke」。「Acoustikka」はアコースティックという言葉にフィンランド語の味付けをした造語です。楽器のアンプを通さない原音の自然でやわらかい響きをイメージしました。革靴って硬くて足を痛めるイメージがあると思いますが、素材を選んでちゃんとつくってあげれば初めから楽に履けるものです。過剰に装飾はせず、履き心地と見た目を大事にしながらお客様専用の木型とオリジナルのデザインで仕立てています。開業当初はフルオーダーだけで、お客様の家を訪問して採寸などしていました。次第に同世代の方や、金銭感覚や感性が近い方にも革靴を届けたいと思うようになって「クスノキシューズ」を始めました。フルオーダーの価格と納期は15~20万円で半年ほど、カジュアルオーダーは2万5千円前後で2ヵ月半ほど。クスノキシューズは不要な芯地や縫い目を省いて一枚革で仕立てているので、ソフトで軽い履き心地。靴底を張り替えれば一生使える靴です。素材についてはブランド名や産地にとらわれず、良質な天然皮革を選ぶようにしています。デザインについては、10年、20年経っても流行に左右されないような普遍的なデザインを心がけています。

 

ナチュラルでかろやかなカジュアルシューズ

編集部:今、イチオシの商品を教えてください。

セカンドラインの「クスノキシューズ」です。男女問わず履いてもらえるカジュアルシューズで、モデルは15種類ほどあります。こちらはクラシカルなヨーロッパ風の木型を使ったラウンドトゥ(つま先のラインが丸い)ラインで「白川」というモデル名。このシリーズは「北山」や「伏見」など京都の町の名前を用いています。ドイツでは地名をモデル名にしているアパレルやシューズのブランドが割とあるとマイスターから聞いて、僕もそうしようと。オブリークトゥ(つま先のラインが丸くて足の形に沿う)ラインは神戸、3cmヒールのラインは東京の地名を使っています。親しみのある名前が付いていると履く人も愛着が湧きますし、会話するうえでも区別がしやすいです。ラウンドトゥのモデルは気持ち細めでちょっとエレガント。ジャケット&パンツスタイルにも合います。どのモデルをつくる上でも共通しているのは、気楽に使ってほしいという思いですね。そこまでお手入れの必要もありませんし、履き慣らしの期間もないのでどんどん履いてもらいたいです。

 

一生履ける靴で、一生の思い出を

編集部:オーダーを受ける際に大切にしていることはありますか?

オーダーを受けるときは、足のお悩みを聞くところから始めます。1日や1週間という単位でどんな生活をされていて、どんな場所で靴を履かれているかも伺います。例えば休日しか履かない靴を仕立てるなら、履く人のファッションのテイストに合わせたり、夫婦で並んで歩くならパートナーの意向も汲み取ったり。季節によらず、1年を通じて使えるようなデザインや配色も意識しています。大切な人にサプライズで贈られる方もいるので、その場合はお渡しする相手の情報を丁寧に聞き出します。以前、社会人になったばかりの息子さんからのご依頼で、今までの感謝を込めてお母さんにオーダー靴をつくる機会がありました。アルバイトで貯めた15万円のお金は息子さんにとって大きいお金で、依頼があった段階で僕は泣きそうになって。息子さんが靴を注文するていでお母さんに同伴いただいて「せっかくの機会ですし、足の採寸しておきましょうか?」と。仕立てた靴をご一緒に取りに来られたときに「実はお母さんの靴でした」と息子さんが手渡されて、お母さんは泣いてよろこんでいましたね。夫婦の記念日や結納返しなど、人生の節目に一生履ける靴をつくれることは光栄です。思い出としてもずっと残りますしね。

株式会社ロンタム

大手アパレル会社からの依頼で婦人靴を製造する「ロンタム」。靴の産地である長田区で本社・工場を構え、工場もオフィスも整い職場環境のよさがうかがえる。代表の神農英道(しんのう ひでみち)さんは「まだまだこれから」と話すが、働く人に大きな役割や決定権を持たせていく経営方針も若手育成を見据えてのこと。2020年の社長就任後、取引先から信頼を得て築いてきたその確かな実績はどのようにして生まれたのだろうか。業界復興の糸口にもなりえる、大手アパレルとのオーダーメイドシューズ事業についてもお話を伺った。

デザイナーやプランナーのイメージ通りの靴を製造すること

編集部:神農さんの靴づくりに関わる経緯を教えてください。
父が創業したロンタムに16歳で入社して、まずは製造工場で下積み、その後、企画の勉強もしました。20歳のときにイタリアのアルス国際製靴学校で研修を受けて、戻ってきてからは営業企画の仕事を担当。そして、2020年に兄からバトンを受け取って社長に就任しました。当時、主要取引先だった問屋さんが廃業し、そこにコロナ禍が重なって苦しい時期でしたね。父の助言もあってコロナ関係の助成金は活用せず、従業員には通常どおり稼働してもらって、アパレルブランドから入ってくるサンプルの製作などをしてました。その判断のおかげでお客様からどんなときでも頼ってもらえる会社だと認知していただけたと思います。そういった取引先との関係に支えられて、どうにか苦境を乗り越えることができました。商談など経営の部分は今のところ僕が担当していますが、それ以外は僕がいなくても会社がまわっていく体制を整えています。がんばってくれているスタッフには感謝しかありませんね。ただ、引き継ぐことが難しいのはアパレルブランドなどからくるOEMのオーダーについてです。靴のイメージが先方のデザイナーやプランナーから、言葉やイラストで届いて、それを元にサンプルを制作しますが、イメージを形にすることは本当に難しい。そこは経験値が活きてくる部分で、腕の見せどころ。ロンタムの一番の強みでもあり、靴づくりの肝になる部分です。

60万通りから選ぶ、自分だけのオーダーメイドシューズ

編集部:今、イチオシの靴について教えてください。
素材・カラー・ヒールなど60万通りの組み合わせから選んでつくれるオーダーメイドシューズ「KASHIYAMA WOMEN’S SHOES」です。株式会社オンワードホールディングス(以下、オンワード)さんとの共同事業で、ロンタムでOEMをおこなっています。設備とシステムの導入含めて準備期間が2年ほどで、提供を開始したのが2020年。オーダーで自分がほしい靴を手に入れていただけるだけではなく、納期も特徴です。基本的にオーダーからお客様の手元に1週間で届くようにしていてお客様の“今ほしい”という気持ちに応えています。セミオーダーでこのスピードは一般的にはありえなくて、その仕組みづくりに時間と費用がかかりました。ほかの靴は長田エリアで分業している仕事もありますが、この靴に関してはすべて内製化しています。バーコードを読み取ると個々の受注に合わせて材料を切り取る自動裁断機や、ドイツのパフ社の性能が高いミシンも導入し、スピードだけではなく、ミシン目ひとつ取ってもハイクオリティなものづくりを目指す、本気の事業です。靴業界はこれまで展示会をひらき、注文をもらって、という受注の流れでしたが、これからの時代はもっと挑戦していくことが必要だと感じています。

 

5年後、10年後の姿を思い浮かべて

編集部:神戸の靴づくりの今後、どう感じてますか?
今はこの長田が靴の産地として成立する、最後のチャンスだと思います。これまで、メーカーや卸問屋の要望を受けて、安く早く靴をつくるという慣習がありました。それは、結果的に自分たちの首を締めていて。その影響で下請けの加工場さんやミシン縫製工さんにもきつい状況を生み出していたと思います。この流れを変えないと、製造を支える人たちとともに業界自体もなくなってしまいます。僕らに何ができるかと考えると、ひとつは年間生産スケジュールをアパレル会社さんに出してもらうこと。2ヵ月先の生産数も見えづらい業界なので、より見通しを立たせることで協力会社の仕事を守っていく。その仕組みづくりも僕の仕事だと思っています。父にはよく「協力会社への費用は絶対に値切るな。自分たちのもうけを増やさずに余分に払え」と言われてきました。僕らがいい靴づくりを続けるために、協力会社の仕事を守って、協力会社の方々は品質を上げて、お客様からは信用が得られる。そうした相乗効果を目指しています。今後の目標は、業界未経験の若い人を数名採用すること。10年経てば、僕も50台後半。身内に後継ぎがいるわけではないので、僕がいなくなったときのための土台づくりは今からじゃないと間に合わない。会社の軸になっている従業員と一緒に、5年、10年かけて次世代を育てていきます。