BE KOBE SHOES 相思相愛

BE KOBE SHOES 相思相愛

株式会社アレッツォ

2004年に設立したシューズブランド「アレッツォ」。 長田区に本社・ショールームを構え、トレンドを効かせたベーシックなデザインで靴の企画・製造・卸・販売を行っている。アパレルメーカー とのOEM事業に加え、近年はオリジナルブランドの企画にも力を入れている。代表の水谷義臣さんを訪ね、発売から10年以上のロングセールを記録しているストレッチサンダル「ラゴンマ」や、 企画販売と製造の役割を分けた経営スタイルについてもお話を伺った。

ブランド名は、靴を愛する街の名前から

編集部:水谷さんの靴づくりに関わる経緯を教えてください。

実家が靴の製造工場を営んでいて、幼い頃からたまに手伝っていました。高校卒業後、家業を継ごうと思って浅草の専門学校で靴づくりの基礎を学びました。
学校が終わった後に、靴販売のアルバイトもして渋谷でやらせてもらって。足入れのチェックの仕方、履く人が気になるポイント、売れるデザインなど、実際の販売の現場での経験が勉強になりました。その後はイタリアのミラノにある靴職人養成学校で半年間、紙型製作などパタンナーの勉強をしました。そして、トスカーナ州の都市「アレッツォ」にあるシューズメーカーに1年半勤務してデザインを学んでから帰国。地元の人たちのやさしさに感動したことがきっかけで後々、街の名前を社名にしました。2004年設立のアレッツォは企画販売を、兄が代表を務める三福は製造を担っています。アレッツォは窓口全般を担当しているので、ユーザーやOEMのお客様の声を製造側にいかにうまく伝えるかが大切です。つくり手目線と売り手目線、そのどちらも大切にしながら今はいいバランスで靴づくりを行なっています。

イタリアのデザインと、日本の手仕事の融合

編集部:今、イチオシの靴について教えてください。

オリジナルブランド「ラゴンマ」の、独自製法でつくったストレッチサンダルです。ブランド名はイタリア語で「ゴム」という意味。最大の魅力は、ストレッチ素材を活かしたデザインです。このサンダルは、オリジナルブランドから最初につくった厚底トング(鼻緒)タイプで、2つのストラップの組み合わせで履きやすさ生み出しました。鼻緒のストラップは伸縮してどんな足にもフィットし、甲部分のストラップは伸縮性をなくし、足をホールドしてくれます。また、アウトソール(靴底)にはラバーシャークソールを採用し、3cmの厚みでクッション性に優れ、ギザギザの溝によって屈曲性が高まり、しなやかに歩行を助けます。
ラゴンマが誕生したきっかけは、自分自身も履き心地を実感できるメンズの靴をつくってみたいという想いからでした。ストレッチ素材専用ミシンをラゴンマのために入れて、ミシン工の皆さんを説得しながら使い慣れてもらいました。2013年に立ち上げてもう10年が経ちますが、一度もデザインは変えていません。おかげさまで長くお客様に愛用いただいています。

神戸でしかつくれない靴がある

編集部:神戸の靴づくりの特徴やよさはなんでしょうか。

東京、イタリア、神戸と各地で靴づくりを経験してきました。靴づくりのおもしろいところは、地域ごとに製造の仕方が異なったり、得意な靴のジャンルがあったりするところです。昔から力作業が多い靴づくりの業界は男性中心の職場ですが、神戸は女性が携われるように仕事を工夫して行なってきた歴史があります。全国的に見てもいち早く女性の力でも機械を使えば作業できるようにしていって、そうした流れが世界的に見てもやわらかい神戸の靴文化を生み出しました。薄くて軽くてやわらかいから、足馴染みがよくて靴ずれがしにくい。しかも耐久性に優れているのは、ほかの地域に比べて人工皮革や糊(のり)の技術が高いからではないでしょうか。アレッツォのそばにある糊の会社は海外にも輸出しているほど、日本の糊は接着力が高くて海外からも評価されているんです。神戸は神戸でしかつくれない靴があります。自社工場でのOEMの経験を自社ブランドでの企画・製造にも活かしながら、私たちもアレッツォならではの靴づくりを続けていきます。

 

株式会社エレーヌ

1980年創業の婦人靴メーカー「エレーヌ」。外反母趾など足の悩みを持つ女性向けのコンフォートシューズを主に製造・販売している。代表の時見弘さんは、日本ケミカルシューズ工業組合の副理事長としても神戸の靴産業を牽引する存在だ。オリジナルブランド「時見の靴」のロングセラー商品や神戸での靴づくりの歴史について、長田区にある本社を訪ねてお話を伺った。

 

靴のまち、長田のこれから

編集部:時見さんの靴づくりに関わる経緯を教えてください。
創業者の父はずっと自営業で、最初(戦後)に飴製造、それから喫茶店などを経営したあと、靴屋を始めました。今いるこの展示室は雀荘だったんです。僕は東京の小さな靴メーカーでアルバイトをしながら靴学院に通い、長田の靴メーカーで修行して、父の会社のエレーヌに入りました。阪神・淡路大震災で取引先の問屋さんが倒産して、多額の負債を抱えたこともあったけど、父から会社を継いだ兄と二人三脚でどうにか盛り返したんです。とはいえ、海外生産の勢いが強く、長田の靴づくりに関わる会社がどんどん減っていく状況は変わっていません。このままではダメだということで、合皮から革の靴づくりに事業転換していきました。2010年に始めたのがオリジナルブランド「時見の靴」。兄から代表のバトンを受け取って、日本人に多い外反母趾の方が楽に履ける靴を届けるために立ち上げました。カタログを出して通販も始めたことによって、OEMとは別の動きができたことが事業をつづけるための資産になっています。震災前は国産のケミカルシューズ(*1)の7割を長田のメーカーが生産していましたが、今はケミカルと革がうまく共存していることもこの地域の特徴のひとつですね。

*1 ケミカルシューズ | 主に塩化ビニールなどの合成樹脂を使用した合皮で作った靴。

日本人の足に寄りそうコンフォートシューズ

編集部:今、イチオシの靴について教えてください。
「Mode Tokimi ラム革コンフォートシューズ」は、くらしと生協さん向けに製造している靴で、こちらはローファータイプのもの。アッパーはラム革を使用していて、なめらかな質感と足当たりのやわらかさが特徴です。中敷き全面にクッションを敷いていて、土踏まずの部分をアーチ状にすることで足裏にフィットするようにしています。さらに、つま先には低反発ウレタン、かかとにブレ防止半カップインソール、中足骨には負担軽減のパッドを入れるなどの工夫をしていて、足をしっかりサポートする一足です。自分に合った靴を探している皆さんに一番お伝えしたいことは“足長・足囲・足幅を測る”ということ。靴のサイズは足長(かかとから足の一番長い指先までの長さ)をもとに選ぶのが一般的ですよね。ですが、靴選びにおいて重要なのは靴のサイズではなくて足のサイズなんです。足囲(足の親指と小指の付け根をぐるりと囲った長さ)や足幅(上から見て一番広い足の横幅)も測って適切な靴を選ばないと、靴ずれやヒールが折れることにつながります。エレーヌにはシューフィッターがいて、お電話などでサイズの相談も受けられますので、ぜひ活用してもらえればうれしいです。

くつの産地として次の時代へ

編集部:長田の靴づくりはこれからどうなると思いますか?
僕も所属する日本ケミカルシューズ工業組合では、加盟する企業が連携して、メイド・イン・ジャパンにこだわった質の高い靴を生み出し続けています。平成26年3月には、地域団体商標として「神戸シューズ」が登録されました。合皮などのケミカル素材にこだわらず、神戸ならではのファッション性と機能性が特徴。「京都の着だおれ」や「大阪の食いだおれ」と並んで「神戸の履きだおれ」とも呼ばれた靴のまちには、長年培ってきた技術力があります。エレーヌが「時見の靴」を独自のブランドとして打ち出していったように、日用品ではなく嗜好品としての靴を生み出して残していくことがこれから大切ではないかなと考えています。それと、日本人が履く靴は日本でつくることに意味がある。僕はそう思いますね。機械化されていく部分は増えているけど、それでも手仕事がまだまだ欠かせないのが靴づくり。日本人の足の形を理解している会社や職人がいるからこそ、長く履いてもらえる靴がつくれるんです。

カワノ株式会社

1921年に創業した婦人靴メーカー「カワノ」。長田区に本社・工場を置き、女性の美と健康のため、ファッション性と機能性を備えた靴づくりを行なってきた。自社を代表するブランド「BARCLAY」など、メイド・イン・ジャパンの靴を企画から製造、販売まで一貫して手がけている。100年以上の長きに渡り、ユーザーの支持を得続けてきたその魅力について、デザイナーの伊丹里江さんを中心に、パタンナーの小島竜太さん、管理本部の野田和也さんにお話を伺った。

時代の変化と呼応してきたオリジナルブランド

編集部:カワノの歴史や靴づくりについて教えてください。

野田:大正10年の創業時は「河野護謨(ゴム)工業所」という名前で総ゴム靴をつくっていて、昭和27年にケミカルシューズの製造を始めました。昭和34年に婦人靴分野へ進出した後、革靴分野にシフトしたと聞いています。

伊丹:国産素材の使用と神戸の地場産業の活性化は意識していて、靴底などの見えにくいパーツも近くの協力会社さんから仕入れています。昔は革靴に対して重厚感や高級さが重視されていましたが、今は軽さと楽さが求められているように感じますね。紐の靴よりもスッと履けるローファーが人気。あとは、少し厚底であること。厚いと足が楽だという感覚が、スニーカーのトレンドから来ているのかなと思います。

小島:求められるものはだいぶ変わっていますよね。履いていてきつい靴は避けられる。例えば、パンプスはある程度の締めつけがないと脱げてしまうから、そのあたりのさじ加減はよく考えています。トレンドもターゲット層によって変わってくるので、ブランドごとに対象を見据えて見せ方をうまく変えています。

野田:基幹ブランドである「BARCLAY」は「知的かつ上質」というコンセプト。快適なフィット感と履き心地は機能として持たせながら、時代に左右されないトラッドなデザインです。「VITA NOVA」はコンフォートのブランドで、年齢としてはより上のお客様を対象にしています。少し幅が広めの木型でつくっていて、ベーシックでカジュアルなデザインでご提供しています。

 

さらりと履いて、気品漂う大人の一足

編集部:今、イチオシの靴について教えてください。

伊丹:2024年春の新作、BARCLAYの「ボリュームグルカサンダル」です。グルカサンダルは革のバンドを編み込んだアッパーのデザインで、2023年春もすごく人気でした。革靴の重厚さとサンダルのかろやかさを合わせ持っていて、見た目よりは軽量。ポイントはソールのこの丸いフォルムです。

小島:靴づくりはまずデザインから入ります。デザイナーの伊丹さんがまず手描きで絵を描いて、パタンナーの私が受け取る。ヒールの高さやつま先まわりの形などについて話し合いながら、ベースの木型を決める。そして、平面の紙型に起こす。

伊丹:その後は革のサンプル帳を見ながら素材を選んで原価計算もして、ファーストサンプルをつくります。自社工場なので、1週間で上がってくるスピード感も強みです。足入れをしては修正して、これでいこうという段階で、そのサンプルからパターンを取って製造を進めます。BARCLAYだけでもシーズンごとに10点ほど新作を出すので、1年で4シーズンと考えると新しいものを出し続ける難しさはありますね。

野田:昔は欧米の展示会で多くの情報が掴めましたが、今は消費者のほうが情報を持つ時代です。BARCLAYの直営店が百貨店に入っていて、店頭でユーザーと接する販売員の声をマーケティングに活かしています。例えば、サンプルを見せて「これは百貨店ではスポーティーすぎるかな」と意見をもらったり。ただトレンドに追従するのではなく、消費者動向を調査しながらブランド独自のデザインを提案しています。

神戸発、世界基準のシューズメーカーとして

編集部:靴づくりの未来に向けて取り組んでいることはありますか?

伊丹:CSR(企業の社会的責任)の面でお話すると、ボリュームグルカサンダルは「エコレザー」と呼ばれる人工皮革を素材として使用していて、環境に配慮した商品開発をしている一例と言えます。エコレザーというのは、裁断時に出た革の余りを捨てずに圧縮して、上からコーティングしている素材なんです。

野田:ユーズドの着物の帯を使ったスニーカー「japonica」もそうですね。2023年秋にリニューアルして発表したばかりで、渋谷でポップアップストアを2週間ほど開いたときには訪日観光客の方々の反応が特によかったようです。若い男性に人気があったものの、メンズは1型しかなかったので今後の展開を考えているところです。

伊丹:帯の柄もそれぞれ異なるので、すべて1点ものなんです。ひとつの帯から5足分くらいしかつくれなくて、デザインの難易度は高いですが、メイド・イン・ジャパンを掲げるカワノらしい靴です。世界の国々にも届けられたらうれしいですね。

 

株式会社ベル

1969年の創業以来、長田区で「足にやさしい」をコンセプトに靴づくりを続けてきた「ベル」。海外製造の安価な靴が増える時代に通販サイトや直営店での販売体制を整え、独自開発のインソールや国産の人工皮革を取り入れ、時代の変化に対応してきた。本革と合成皮革の長所を兼ね備えた「ヴィーガンレザー」とは。履く人への愛にあふれたアイデアの源とは。代表の高山雅晴さんにお話を伺った。

逆境を乗り越えるための販路と新素材

編集部:今、ベルでどのような靴をつくっているか教えてください。
ベルで製造している靴の90%はレディースで、7年前からメンズも作り始めました。現在、OEMでの靴づくりはしていなくて、自社通販サイトと直営店での販売がメインになっています。卸問屋と小売店を通す従来の製造卸から直販に切り替えたきっかけは、阪神・淡路大震災でした。得意先の卸問屋が倒産してベルも危なくなったことをきっかけに、楽天市場に出店したらよく売れて、一時は売上の99%がWEB販売になるほどに。直販になったことで価格設定の自由が生まれたので、原価を下げて、卸価格を抑える靴業界の流れとは違う方向に舵をきれました。オンリーワン戦略というんですかね。まずは、独自開発のインソールを半分以上の靴に入れて、その次、「ヴィーガンレザー」と私たちが呼ぶ人工皮革の使用をはじめました。これは本革の繊維構造を人工的に再現した素材で、本革と合成皮革の間のようなものです。とにかく軽くて、やわらかい。原材料としては高めで、靴業界で使っている会社は少ないと思います。この人工皮革での靴づくりでは、釘を使わないので、それも靴のやわらかさにつながっています。ベルの販売店の屋号は「Belle & Sofa やさしい靴工房」。一番大切にしているコンセプトは、履く人へのやさしさです。

足をやさしく包み、日々を共に過ごすスニーカー

編集部:今、イチオシの靴について教えてください。
「Sofaシリーズ」はオリジナルの高反発インソールが入った製品。そのシリーズのひとつが、この「COCOT」というナチュラルスニーカーです。坂が多い神戸でも歩きやすく、毎日履きたくなる靴を目指して開発しました。足裏を包むように設計されたインソールが足の形や動きにフィットして、疲れにくい。ヴィーガンレザーは合成皮革に比べて伸縮性があるし、本革に比べて軽くて抗菌性がいいから雨の日も履ける。あとは、この靴底の色も特徴ですね。ブラウンとホワイトの靴底は、製作時期によって自然な色むらが生まれるように“染料”で着色しています。一般的には、どんな環境でも均一に着色できる“顔料”を使います。ベルではナチュラルな雰囲気に馴染む“染料”を使っていて、タンク内の湿度や温度によって色の出方が変わる。小売のチェーン店だと不良品扱いになるでしょうけど、私たちはこの手づくりの味を靴の個性として大事にしています。購入いただいた後も自社で修理ができますし、靴によっては幅広・幅狭の加工や左右で異なるサイズの注文を受けられます。それもまた、メーカー直販の強みですね。

 

アイデアは、人や社会を助けるためのもの

編集部:ベルの靴づくりを長く続けるための工夫はありますか?
4年ほど前から新卒採用をようやく始めて、職人やデザイナーを育成しています。また、社内で「アイデア報酬制度」をつくって企画開発を奨励しています。社内で高い評価を受けたアイデア商品は利益の20%を4年間うけとれるというものです。また、靴を製造する工程で余ってしまった材料を活かして革の手帳やブックカバーをつくるなど、環境面でも配慮したプロダクトを生み出しています。結果、そうした雑貨小物が売上全体の15%を占めるようになりました。ビジネスシューズ「HAWK」は中底が不要な独自の製法でつくった靴で、通常の靴よりも産業廃棄物が30%減。「HAWK」と同じくグッドデザイン賞をいただいた「KAYAK」は、足を入れて振るだけでマグネットボタンが留まってハンズフリーで履ける靴。妊婦さんや足腰が弱い方にも重宝されています。僕らのアイデアは、社会で困っている人を意識したものが多いです。靴のデザインに関しては、骨格をしっかりさせてかわいくコンフォートに、アッパーはシンプルにしています。結果的に50~70代の方々が多く履いてくれていますが、20代の社員も履けるものをつくりたいなと。かわいくいたい、かっこよくありたい。そういう気持ちって何歳でも変わらないですからね。